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2007年11月13日 (火)

今、「源氏物語」を読んでいます

谷崎潤一郎氏は生涯に3回、源氏物語の現代語訳を成し遂げたというとてつもない業績を残されましたが、今読んでいるのは中公文庫で5巻で出ている最後のものです。

 熊沢蕃山も源氏物語を勧めていたということですが、一般に、軟弱な読み物として武士社会からは忌避されていたものとも言われます。好色文学のように言われていますが、いわゆる「濡れ場」の描写など殆ど全くといってよいほどありません。心の描写こそ緻密をきわめていますが、現代の露骨で下卑た性の氾濫とは対極にある世界といってよいでしょう。

 人の心の機微とは何か、人生とはどういう味わいのあるものなのか、感慨と共に感じ取ることが出来るものが、源氏物語だと思われます。

 本居宣長が「もののあはれ」を知るということを強調されましたが、正に「感ずべきときに、感ずべき心を知りて、感ずる」鋭敏な感性を見事に作品として残したもので、日本に平安時代が現出し、そこに女房文学が生まれ、紫式部という女性を生み出し、源氏物語が生まれたという不思議な連環を見て取ることが出来るように思われます。

 源氏物語が成立した頃、外界はどのような荒波の中にあったでしょう。中国大陸は唐末から五代十国の乱世の真っ只中。ヨーロッパではイギリスなどノーマンコンクェスト以前、フランク王国が分裂しかけている頃でしょうか。アラブ世界ではアッバース朝が衰退期に入った頃でしょうか。インドは国としての体をなしておりませんでした。勿論、ロシアなど影も形もありません。南アメリカにはアンデスの古代先住民の国家の興亡が続いておりました。

 源氏物語は、世界最古の小説であり、女流文学とも言われ、今でも此れに匹敵する小説は出ていないといわれます。少なくとも日本においては首肯せざるを得ませんし、世界を見回しても、あるいは、とも思われます。

 それにしても日本人の美意識は、この頃最も発達したのかも知れません。そしてその系譜は途切れることなく現代にまでつながっているわけです。今読んでも、源氏は素晴らしい文学であり、人生の機微、人の心の機微を知るのにまたとない題材を与えてくれます。

 日本の文学を分類するとき、「ますらをぶり」と「たはわめぶり」と称することがあります。源氏は当然ながら後者になるわけですが、さりとて前者が全くないわけではありません。むしろ、かつて蓮田善明が述べた如く「雅が敵を討つ」というように、「たはやめぶり」こそが最後の最後の抵抗拠点になるのではないか、と思われます。

 今、日本の国が深く病んでいるこのときにあたり、「ますらをぶり」もさることながら、「たはやめぶり」こそが、日本回復の鍵になるのではないかと思われます。それは「もののあはれを知る心」の回復であり、武士道精神の奥深くに通底する民族の基調低音のように鳴り響いているもののように思われるのです。

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