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2007年2月25日 (日)

「日本沈没」を読んで

 23日から24日にかけて、小松左京氏の「日本沈没」(光文社文庫上下)を一気に読了した。

 少しうんざりしていたので目先を変えるつもりで、手に取って初めて通読した。一年ぐらい前にそのうち読もうと思って古本で買っておいたものだ。

 いつだったか、何かの対談で、小松左京氏が、この小説を書いた動機について、次のように語っていたのを記憶している。

~日本民族は、日本という国土から切り離された場合、果たして民族として存続できるのか、というものだった。ところが、果たして日本列島は本当に沈むのか否か、という方にばかり関心がいってしまったので苦笑している。~

 いつか読んでみたいというのも、このような氏の言葉が心のどこかに引っかかっていたからである。

 通読してみて、「誤解」される理由もよく分かった。実にリアルに描かれているからである。関西大震災などについては、本当に予言的でさえある。

 この小説は色々な読み方が出来る。

 ・災害に対する対処。

 ・組織における人間、官僚、マスコミ、財界などの人間の実態

 ・政治というものの性質と政治に携わる人間像

 ・国と国との関係の冷徹さ

 ・地球物理学

 ・日本人とは何であり、何処へ行くのか

 ディテールに至るまで、実に丹念に描かれている。文学作品であるのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

 この作品を、日本人論として読むことは、自分の記憶する作者の意図からすれば正統な読み方なのだと思うが、この国土と切り離しがたい歴史と伝統と文化を持つ日本人の在り方を改めて眼前に突きつけられるような思いがした。

 作品の中で、何の対策もせず、この国土と共に滅びるのが日本人にとって一番良い道である、という結論が、ディアスポラの影響を考える学者たちの結論に落ち着きそうになるという話が挿入されている。その結論は結局目的の趣旨と違うということで別枠の意見書として残されるにとどまるが、胸を突かれる思いがするのである。その結論を出した後、一人の学者は極度の疲労から息を引き取る。

 最後の場面で、主人公の小野寺を介抱する摩耶子という少女が、自分の生まれた八丈島に伝わる伝説、丹那婆の話をする。それは津波で凡ての島民が流されてしまった後にただ一人生き残った丹那婆という女性の話である。丹那婆は、その時身ごもっていた。男の子が生まれ、一生懸命育てた。そしてその男の子が成長すると、この島にはたくさんの人が住んでいた。昔のようにこの島を戻さなければならない。そのためにあなたに女の子を産んであげるからと男の子の子種を得て女の子を産む。そして、そのふたりが島人の祖先になったという話である。たとえ一人になっても生き抜いて生命をつないでいく、という凄まじい話だが、それが最後に語られて第一部が終るということになる。

 (余談だが、手塚治氏の「火の鳥」に同じテーマの話が描かれていたところがあった。)

 ずっと以前に、子供の頃、テレビドラマ化された「日本沈没」を見たことがある。断片的にしか憶えていないのだが、強烈な印象が残っていた。どんな話なのだろうかという興味はずっともっていたのだが、何となく敬遠していたのだ。
 今回読んでみて、もしこの日本という国が沈んでなくなってしまったら、ということを「リアル」に考えてみて、自分の心の反応を感じることが出来た。

 今、日本が現実に沈没する、ということはないかもしれない。しかし、日本人が日本人として存続できるかどうかという命題は、決して単なるフィクションの話ではない。歴史と伝統の国としての日本の沈没は、内からも外からも有り得るということ、それに対して、何が出来るのかということは、田所博士ではないが、小野寺ではないが、考えてみる必要があるのではなかろうか。

 小松左京氏の作品は、高校時代までにある程度読んだ程度で、それ以後は余り読んでいなかった。SFは以前は好きだったのだが、大学以後は殆ど読まなくなっていた。思考実験という意味でのSFは、意義のある文学であると思う。1970年代の雰囲気を濃厚に漂わせた作品ではあるが、今の時点から見ても全く古くないところが大部分であること、特に、日本人論としての思考実験は決して終っていないことを、感じる。

 第二部が、最近出ていたはずだ。また機会を得て、いつか読んでみたいものだ。

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