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2006年11月27日 (月)

郵政劇場のエピローグか、新たなる政治対決のプロローグか 復党問題土壇場の動きの感想

 郵政民営化法案に反対し、自民党を離党した12名の国会議員の復党問題がクローズアップされている。

 今日(27日)を期限に、復党願いを誓約書とともに提出せよ、というのが中川幹事長の出した条件であるが、自民党の党内でも一斉に反発が広がっていることが報道されている。復党に反対するのは、直接利害関係のある、所謂小泉チルドレン組の一部の国会議員と、元幹事長の武部議員位なものというのが報道されている内容である。

 ある調査で、世論は離党組の復党に反対している、というのであるが、その「世論」は肌身に感じるものではない。それは関係者の心の中にあるやましさの反映に過ぎないというようにも見える。

 安倍総理の意向を受けていることを繰り返し繰り返し強調している中川幹事長であるが、産経新聞の記事を丹念に読んでみると、安倍総理と中川幹事長の発言内容には齟齬がある。むしろ、安倍総理と平沼議員の発言内容の方が平仄が合っているのである。

 端的に言って、「郵政民営化法案」は、昨年成立し、立法府としての意思決定は既に終了しているのである。現在作業は、行政府に移っている訳である。勿論、チェックは必要だとはいえ、既に次のステージに移った「過去」の問題、それが「郵政民営化」なのである。立法府の決断が正しかったか間違っていたかは、歴史が裁く問題である。

 その「過去」の問題を、現在の新しい状況の中で「踏み絵」に使おうということは、「筋を通す」という口吻の裏に別の意図が隠されているように思われてならない。言わば国民注視の中で、「辱め」を与えようということである。国民もバカではない。これが、現在問題としてクローズアップされている「いじめ」問題にオーバーラップしてくることは間違いない。

 文芸評論家の江藤淳氏(故人)の講演集「考えるよろこび」に次のような話が掲載されている。ケネディ大統領がまだマサチューセッツ州の上院議員に選ばれたばかりの頃に書いた「勇気の横顔」という本で紹介された、エドマンド・ロスという上院議員の話である。

 エドマンド・ロスは全く無名の人で、僅かに一期だけアメリカ合衆国の上院議員になって、次の選挙では再選されなかった人物で、ちょうどソクラテスのようなことをした。

 南北戦争が終ってまもなく、大統領のリンカーンが暗殺され、副大統領が後を襲った。これがジョンソン副大統領で、テネシー州という南部出身の人物だった。南北戦争は内乱ということになっているが、その戦闘区域の広さでは第一次世界大戦に匹敵し、作戦上も大戦を予見する大きな戦争でその結果70万人の死者を出したものである。

 ところが、リンカーンが死んだために、俄かに大統領になったこのジョンソンは、南部連合が分離したときにただ一人踏みとどまってリンカーンの補佐役になったといういきさつがあった。リンカーンの急死によって南部出身でありながら南部を占領した北部の意志を実現するまわり合わせの大統領になった。

 もともとリンカーンの占領政策は寛大なもので、ジョンソンもそれを継承したわけだが、与党共和党内に南部を徹底的に弾圧すべしという急進派が台頭し、ジョンソンのやり方を手ぬるいと非難し、あいつはもともと南部出身だからわぞと手ぬるくしているんだろう、ということになって、大統領と議会の関係は決定的に悪くなってしまった。

 議会が占領地域に対して過酷な法案を通すと、大統領はこれに拒否権を行使する。すると今度は議会が3分の2の絶対多数で拒否権をはねかえして法案を成立させてしまう。そのうちにジョンソン大統領が、共和党急進派の同調者だった陸軍長官のスタントンという人をやめさせるという事件がおこった。これに対して議会がいきり立ち、専制政治だといって下院で大統領弾劾の決議が行われるという騒ぎになった。もしこの上に上院が3分の2の多数で弾劾を決定すると、大統領は辞めねばならなくなる。

 このような状況の中で、俄かに若い新米議員だったエドモンド・ロスという上院議員が注目を浴びるようになった。なぜかというと、上院の反大統領派の勢力は3分の2にちょうど一人だけ足りず、このロス議員がキャスティング・ボードを握るというめぐり合わせになったからである。

 このロスという人物は、カンサス州の選出で、共和党急進派の根城でもあり、ロス自身もジョンソンがきらいでパリパリの急進派を売り物にして当選した人だったから、弾劾決議案に賛成するだろうというのがはじめのうちの大方の予想だった。ところが、この一年生議員がいつまでたっても態度を明らかにしない。党のボスから言われても、賄賂をもってこられても、金はほしくないとケロリとしている。反対派はとにかくこの若僧を口説き落として3分の2を得ればよいと思っている。ロスの方でも、反対派に同調しなければ、せっかく上院議員になった自分の政治生命が完全に失われるだろうことはわかっていた。・・・

 いよいよ、弾劾決議案が成立するかどうか、という日がやってきた。ロスは一生懸命に考えていた。彼の政治信条を行うために、どうすべきかを考え、反芻していた。
 上院議員がひとりづつ大審院長に名を呼ばれ、ジョンソン大統領が有罪か否かをたずねられる。ロスの名が呼ばれ、答える番になった。満場が固唾を呑んで見守る中、ロスはその雰囲気に気おされて大きな声がでなかった。誰かがもう一度、とどなり、ロスは「無罪です」といった。この一言で弾劾決議はお流れとなり、ジョンソン大統領は名誉を救われ、ロスの政治生命も、未来も、財産も、名声も総てが失われた。

 なぜ、エドモンド・G・ロスという一年生議員は、このようなことをあえてしたのか。

 それについて、江藤氏の言葉をそのまま引用したい。

 「政治家としての彼は、三権分立の精神がおかされるのを座視するにしのびないと思った。議会の多数派が、党利党略から大統領の人事に干渉しはじめたら、党派をこえた全体、つまり国家そのものの代表である大統領という地位の威信は地に堕ちてしまう。ロスはアンドルー・ジョンソンを評価していなかったし、その政策に絶対反対であった。彼が無罪を主張したのは、だからジョンソンのためではなくて、大統領というオフィスのためです。ここのところがいかにもソクラテス的な発想です。つまりこの若い上院議員は、彼のなかにある全体のために、彼を超えたなにものかの存在を証明するために、政敵の名誉を救う一票を投じた。そして自分の手で自分の政治生命を絶った」

 江藤氏が生きていたら、郵政民営化を巡る解散劇をどのように評したか、現在の復党問題をどのように評したか、想像するだに興味深いものがある。故人を起こして聞くことは出来ないが、平沼議員に対して、「政治」に対して「精神」の所在を明らかにした、ということは言ったかもしれない。「政治」が酷烈な権力闘争だけが支配する場であったらその国家はいかにも殺伐としたものとなるだろう。江藤氏は、あのときのアメリカ議会の雰囲気を「狂信的愛国主義の時代、敵を叩き伏せるためには手段を選ばない政治過剰の時代」と表現しているけれども、現在の日本の国会の状況については、「精神の過剰な不在」と「狂信的敵対心」の支配する時代とでも表現したかも知れません。

 復党問題をめぐる状況は、小泉劇場のエピローグではなく、これからはじまる、「精神を持たない化け物」と「精神をもつ人間」の何れがこれからの日本の政治を担っていくものであるのか、という戦いのプロローグであるのだ、と感じる。

 日本は、ソクラテスを殺したアテナイのように衰亡の道を辿るのか、ロスが守ったアメリカのように隆盛の道を歩むのか、その答えは一体何処にあるのであろうか。

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 前回のエントリーに多くのコメントが寄せられました。皆様有り難うございます。順次コメントさせていただきたいと思います。  さて、今朝の産経新聞にIZAでブログを書いておられる佐々木記者が署名記事を書いてお... [続きを読む]

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