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2005年6月14日 (火)

教科書採択、愈々本番!

2006年度版 教科書改善白書 全「歴史教科書」を徹底検証する (三浦朱門編著)

中国の反日暴動や、韓国の「竹島の日」への過激な反応など、エキサイティングな事態が連続して起ることによって、やや影に回っているような観も受けますが、来年度から使用される中学校用教科書の採択作業が進んでいます。

そろそろ、教科書展示会も開かれるから、私も行って直に見てきたいと思っています。

ところで、比較するには基準が大切で、基準が歪んでいると評価も歪みます。そこで、一つのたたき台として、上記の本をお薦めします。

早速購入して読んでみましたが、非常に分り易く、穏当なものだと思います。1260円で手頃でもあります。

最初の部分だけちょっとご紹介したいと思います。この本がどのように分り易いか、良い判定材料にもなるからです。

「歴史上の人物を、どの程度取上げているか」

この設問で、学習指導要領の目標

「国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を、その時代や地域との関連において理解させ、尊重する態度を育てる。」

「歴史上の人物に対する生徒の興味・関心を育てる指導に努めるとともに、それぞれの人物が果たした役割や生き方などについて時代的背景と関連付けて考察させるようにすること」

を踏まえて、各社を比較している。

先ず、人数について、多い順に

1、扶桑社       263名
2、日本文教出版  210名
3、日本書籍新社  205名
4、清水書院     203名
5、大阪書籍     187名
6、教育出版     170名
7、帝国書院     162名
8、東京書籍     154名

となる。

単純に取上げている人数の比較だが、100名以上もの落差があることに驚かされる。現在シェアの51%を占めている東京書籍が最下位ということからも、現在の歴史教育現場がいかに「人物軽視」しているか、はっきりと見て取れる。

しかし、単に多く取上げていればいいというものでもない。そこで、この本では、A〜Dまで、取上げ方について分類をし、それぞれの数を比較している。

A 一ページ以上の人物コラムもしくは本文で特に人物として大きく取上げ、詳しく解説しているもの
B 本部中で詳しく取り上げるか小コラムで取り上げ、簡単な人物解説を施しているもの
C 扱いとしては小さいが、最小限の人物解説を加えているもの
D 人名としては出てくるが事項の羅列に近く、人物解説になっていないもの

この分類で、再度上記8社の教科書を比較すると、以下のようになる。
            A  B   C   D   総計  A+B A+B+C
1、扶桑社     11 20  59 173  263  31  90
2、清水書院    3  23  57 120  203  26  83
3、帝国書院    1  20  43  98  162  21  64
4、東京書籍    1  12  46  95  154  13  59
5、教育出版    4  11  38 117  170  15  53
6、日本書籍新社 2  10  40 153  205  12  52
7、日本文教出版 2  14  31 163  210  16  47
8、大阪書籍    0  18  29 140  187  18  47

この分析の結果、驚くべきことに、取り上げる人数だけでは2,3位だった2社が、6,7位に落ちてしまうことだ。名前だけの暗記に苦しめられた記憶のある人はきっとこのような傾向の教科書で学んだに違いない。意味のない符牒のような名前だけを覚えるのでは苦痛以外の何者でもなかろう。丁寧に重要なポイントになる人物について学び、それに伴って関係する人々として名前を覚えるなら、一連の物語になるから憶え易くもなる。歴史が好きになるか、嫌いになるかの分かれ目もそのあたりにあるのではないか。
ここまで見て、ようやく、「人物重視」」の教科書として、1〜3当りが浮かび上がってくるであろう。

さらい、具体的に、どのような人物を重視して取り上げているかに進むと、次のような一覧表になる。
つまり、A項目で取り上げた人物を比較して見るということである。

【扶桑社】 伊藤博文・織田信長・聖徳太子・昭和天皇・神武天皇・津田梅子・徳川家康・豊臣秀吉・二宮尊徳・源頼朝・紫式部(11人)
【教育出版】 浅川巧・阿弖流為・杉原千畝・長屋王(4人)
【清水書院】 織田信長・卑弥呼・ムハンマド(3人)
【日本文教出版】 ペリー・ムハンマド(2人)
【日本書籍新社】 シャクシャイン・与謝野晶子(2人)
【東京書籍】 竹崎季長(1人)
【帝国書院】 中江兆民(1人)
【大阪書籍】 なし

ここに至って、唖然とさせられ。扶桑社で取り上げている人物は11人と多いが、常識ある大人の日本人で先ず知らない人はいないだろう。
ところが、それ以外の教科書では、知られていない名前や、あるいはある程度知られていても日本の全歴史を通じて何故その人を特記する必要があるのか理解に苦しむ人、あるいはそもそも日本史の流れに関係のない人までが取り上げられている。ここだけで判断するなら、バランスの取れたオーソドックスな教科書は、一社しかない、ということになる。一体、他の教科書は歴史をどのように描いているのか、これだけでも不安になる。

そこで、本書では「歴史人物の取り上げ方に、偏りはないか」として、大人も知らないような人物を、中学校の歴史教科書が好んで取り上げる傾向を指摘し、取り上げている人数の多いものを転記している。(一般になじみのない人物名)

【日本文教出版】 阿弖流為・安重根・大塚楠緒子・岸田俊子・コシャマイン・シャクシャイン・尚円・尚巴志・柳宋悦・李舜臣・柳寛順
【日本書籍新社】 アテルイ・安重根・伊波普猷・違星北斗・景山英子・岸田俊子・シャクシャイン・田代栄助・閔妃・李舜臣
【東京書籍】 アテルイ・岸田俊子・シャクシャイン・尚泰・柳宋悦・李参平・李舜臣
【帝国書院】 アテルイ・安重根・シャクシャイン・知里幸恵・柳宋悦・李舜臣・柳寛順
【教育出版】 浅川巧・阿弖流為・安重根・姜??・シャクシャイン・知里幸恵・李舜臣
【清水書院】 阿弖流為・安重根・伊波普猷・伊治砦麻呂・シャクシャイン・李舜臣
【大阪書籍】 安重根・シャクシャイン・尚泰・柳宋悦・李参平
【扶桑社】 アテルイ・シャクシャイン・李舜臣

本書では、簡単に一人一人解説しているが、それは本文を読んでもらうとして、「このように見てくると、沖縄・アイヌ・蝦夷・朝鮮で日本に敵対した人々、もしくはそれに同情する日本人や自由民権論者ばかり」であるという指摘は注目に値するだろう。日本の歴史というよりも、対日本抵抗運動史とすれば適当かもしれない、要するに特定の歴史認識に立った人物選択であるといえるだろう。
「日本の将来を背負って立つ中学生に、日本の歴史上の人物を差し置いてこうした人物を教えることに問題はないのだろうか。」という著者の指摘は極めて真っ当であると思う。

本書では更に、地名や人名の読み方について、中国語、韓国語を優先していることを指摘しているが、省略する。

これは総論であり、各論として古代1〜3、中世1〜3、近世1〜4、近代1〜6、現代1〜2と、各項目について比較している。
例えば古代2は「中華秩序と聖徳太子」、中世1は「鎌倉幕府の成立(武家政治の特色)」、近世4は「江戸時代像の再評価」、近代1は「明治維新と近代国家の建設」、近代4は「条約改正」などの視点である。勿論、これらはみな学習指導要領に沿った視点である。

読み易く、ある意味楽しんで、早い人なら一晩もあれば読んでしまえるだろう。

教科書問題について色々な論議がされるけれども、本当に全ての教科書を読み込んで、公正に比較対照した上での議論をしている人は、殆どいないのではなかろうか。その意味でも、この分析は、恣意の入る余地のない客観的な方法で、学習指導要領という最も適切な基準に基いて判定していることから、大いに参考になると思われる。

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受信: 2005年6月19日 (日) 午前 12時11分

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