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2005年5月29日 (日)

百年の課題

日本海海戦から100周年。あの世界を驚愕させたパーフェクト勝利は、それまでの白人至上主義の世界を揺さぶった。ヨーロッパでは黄禍論が流行し、アメリカは対日警戒心を強め、被圧迫民族の中には民族独立のムーブメントが起こった。

そして、ここから40年後に、日本は大東亜戦争を戦い満身創痍となって、ポツダム宣言を受諾し、建国以来初めて外国の占領下に置かれる恥辱を忍ぶことになった。

その間、民族独立の動きは世界中に広がり、次々と独立国家が生まれていった。敗戦の焼け野原の中から復興に立ち上がった先人たちは、自らがまだ貧しい生活を余儀なくされているとき、既に、新興独立国群に対して援助の手を差し伸べた。

日露戦争は辛うじて勝利したものの、新興国日本にとってこの戦争は無理の上に無理を重ねたものであったことは間違いない。多くの指導者たちが若くして世を去っていった。なかんずく明治天皇の崩御は、国民精神に大きな変容を萌した。

大らかで闊達な明治の精神は徐々に変容を初め、白樺派に代表される「コスモポリタニズム(世界市民主義)」が青年の心を捉えた。そしてその中から、更に新しいユートピアを目指す社会主義・共産主義が蔓延を始めた。

関東大震災は、それまであった江戸文化の遺産の多くを灰燼に帰した。歴史と伝統から切り離された精神的な混迷に拍車がかかった。

裕仁親王殿下が摂政宮として政務を見られるようになったのもこの頃だった。難波大助による虎ノ門事件が起こった。第2の大逆事件の背後に揺曳していたものは、共産主義の幻影であった。

共産主義が来るべきミレニアム(千年王国)を約束する歴史の必然として知識人の頭の中を染め上げていった。昭和初期は「赤にあらずんば人にあらず」という風潮が一世を風靡した。

そこに、世界共産化を目指すコミンテルンが結成され、その日本支部が結成された。29年(昭和4年)テーゼ、32年(昭和7年)テーゼによって、「天皇制打倒」が明示されるに至り、治安維持法により、共産党は非合法化され、党員の一斉検挙が始まった。今とは比べ物にならないエリートだった大学生が次々と検挙され、警察による拷問により、筋金入りの共産主義者として鍛えられていった。

不況の嵐が吹き荒れ、国家革新が唱えられた。左からの革命が挫折すると、全く同じ理念を掲げた右からの革命が蠢動した。インテリから軍隊に飛び火したのである。次々と明るみに出るクーデター計画。想像を絶する貧困。2・26事件が起こった。

これ以後、政府は軍部に対するコントロールを失った。坂道を転げ落ちるように、支那事変に突入。百年戦争が叫ばれ、統制経済から計画経済への移行が企図された。これは一つの上からの革命だった。日米開戦直前に、ゾルゲ事件が発覚し、政府中枢部にまでコミンテルンの謀略網が張られていたことが発覚。企画院事件とも相俟って、泥沼の支那事変、そして破局への対米戦へのレールを敷いたものが、共産主義者の陰謀であったことが明らかになった。余りのことに政府はこの事実を隠蔽した。「戦争に突入させよ、そして敗戦に導き、その混乱を利用して革命を達成せよ」とのレーニンの号令が、そのまま日本において行われたのだ。

「国のため、君のためにと思い、忠義を尽くしたつもりが、不孝不忠のこととなった」かつて、高山彦九郎が血涙を流して吐き、切腹して果てた際の言葉である。昭和の指導部は、この声を自分のものとすべきではなかったか。

しかし、政府内外の革命派は、戦中には、ファナティックに戦争を煽り、人間の自然に反してまで戦意高揚を煽った。そして、敗戦と同時にヒラリと転身し、民主、自由の旗手となった。いつの時代にも、軽薄な知識人は、風見鶏に過ぎないのかもしれない。

未曾有の強烈な権力主体であった占領軍おかげで、革命の危機は免れたものの、一方において占領軍による日本人の精神解体が試みられた。無邪気な善意と、巧まれた悪意が交錯する中、呪われた「日本国憲法」が成立した。しかし、冷戦構造が次第に明るみに出て、朝鮮戦争が勃発した。アメリカはかつての日本が直面していた脅威に、日本に替わって対峙し、多くの青年の血を流すことになった。日本は「平和」をセントラルドグマとする戦後復興作に全力を注いだ。

かつて夢想された国家改造は、この過程で達成された観がある。しかしながら、精神的な混迷だけは課題として残った。

それが、冷戦の終結と昭和の終わりという二重の転換にあって、一気に吹き出てきた。

日露戦争勝利100年は、再び、かの時と同じ問いを日本人自身に問うているように思われる。

日本人を、汝、自らを知れ、と。

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