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2011/01/29

橘曙覧の歌 (2)  独楽吟

1 たのしみは 草のいほりの 筵敷き ひとりこころを 静めをるとき

2 たのしみは すびつのもとに うち倒れ ゆすり起こすも 知らで寝し時

3 たのしみは 珍しき書 人にかり 始め一ひら ひろげたる時

4 たのしみは 紙をひろげて とる筆の 思ひの外に 能くかけし時

5 たのしみは 百日ひねれど 成らぬ歌の ふとおもしろく 出できぬる時

6 たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ 頭ならべて 物をくふ時

7 たのしみは 物をかかせて 善き価 惜しみげもなく 人のくれし時

8 たのしみは 空暖かに うち晴れし 春秋の日に 出でありく時

9 たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の 咲ける見る時

10 たのしみは 心にうかぶ はかなごと 思ひつづけて 煙草すふとき

11 たのしみは 意にかなふ 山水の あたりしづかに 見てありくとき

13 たのしみは 尋常ならぬ 書に画に うちひろげつつ 見もてゆく時

14 たのしみは 常に見なれぬ 鳥の来て 軒遠からぬ 樹に鳴きしとき

15 たのしみは あき米櫃に 米いでき 今一月は よしといふとき

16 たのしみは 物識人に 稀にあひて 古しへ今を 語りあふとき

17 たのしみは 門売りありく 魚買ひて 煮る鍋の香を 鼻に嗅ぐ時

18 たのしみは まれに魚煮て 児等皆が うましうましと いひて食ふ時

19 たのしみは そぞろ読みゆく 書の中に 我とひとしき 人をみし時

20 たのしみは 雪ふるよさり 酒の糟 あぶりて食ひて 火にあたる時

21 たのしみは 書よみ倦める をりしもあれ 声知る人の 門たたく時

22 たのしみは 世に解きがたく する書の 心をひとり さとり得し時

23 たのしみは 銭なくなりて わびをるに 人の来たりて 銭くれし時

24 たのしみは 炭さしすてて おきし火の 紅くなりきて 湯の煮ゆる時

25 たのしみは 心をおかぬ 友どちと 笑ひかたりて 腹をよるとき

26 たのしみは 昼寝せしまに 庭ぬらし ふりたる雨を さめてしる時

27 たのしみは 湯わかしわかし 埋み火を 中にさし置きて 人とかたる時

28 たのしみは とぼしきままに 人集め 酒飲め物を 食へといふ時

29 たのしみは 客人えたる 折しもあれ 瓢に酒の ありあへる時

30 たのしみは 家内五人 五たりが 風だにひかで ありあへる時

31 たのしみは 機おりたてて 新しき ころもを縫ひて 妻が着する時

32 たのしみは 三人の児ども すくすくと 大きくなれる 姿みる時

33 たのしみは 人も訪ひこず 事もなく 心をいれて 書を見る時

34 たのしみは 明日物くると いふ占を 咲くともし火の 花にみる時

35 たのしみは たのむをよびて 門あけて 物もて来つる 使ひえし時

36 たのしみは 木の芽煮やして 大きなる 饅頭を一つ ほほばりしとき

37 たのしみは つねに好める 焼豆腐 うまく煮たてて 食はせけるとき

38 たのしみは 小豆の飯の 冷えたるを 茶漬けてふ物に なしてくふ時

39 たのしみは いやなる人の 来たりしが 長くもをらで かえりけるとき

40 たのしみは 田づらに行きし わらは等が 鋤鍬とりて 帰りくる時

41 たのしみは 衾かづきて 物がたり いひをるうちに 寝入りたるとき

42 たのしみは わらは墨する かたはらに 筆の運びを 思ひをる時

43 たのしみは 好き筆をえて 先ず水に ひたしねぶりて 試みるとき

44 たのしみは 庭にうゑたる 春秋の 花のさかりに あへる時時

45 たのしみは ほしかりし物 銭ぶくろ うちかたぶけて かひえたるとき

46 たのしみは 神の御国の 民として 神の教へを ふかくおもふとき

47 たのしみは 戎夷よろこぶ 世の中に 皇国忘れぬ 人を見るとき

48 たのしみは 鈴屋大人の 後に生まれ その御論をうくる思ふ時

49 たのしみは 数ある書を 辛くして うつし竟へつつ とぢて見るとき

50 たのしみは 野寺山里 日をくらし やどれといはれ やどりけるとき

51 たのしみは 野山のさとに 人遇ひて 我を見しりて あるじするとき

52 たのしみは ふと見てほしく おもふ物 辛くはかりて 手にいれしとき


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