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2010/08/26

万葉集 額田王、近江天皇を思ひて作れる歌一首

 君待つと わが戀ひをれば わが屋戸の すだれ動かし 秋の風吹く

(万葉集巻四、四八八)


 近江天皇とは、近江に都した天智天皇のことである。

 額田王は天智天皇の母君にあたられる斎明天皇(皇極天皇重祚)に仕えた官女であり、宮廷歌人でもあった。

 天智天皇が皇太子時代、中大兄皇子として政治に当たっておられた時からの長い関係があったと思われる。

 この歌の歌意は、簡明であり、かつ女性の恋心の微妙な性質を歌い上げている。

 自室(わが屋戸という言葉から推察)に居られた彼女は、ただ恋人を待ち焦がれている。ふと入口の簾が動いた。あの人が来たのかと振り返るけれど、人影はない。ただ、秋の風が吹きすぎていくばかり。

 一人で待っていたのでないことは、次の歌から知られる。

  鏡王女(かがみのおおきみのむすめ)の作れる歌一首

風をだに 戀ふるはともし 風をだに 来むとし待たば 何か嘆かむ

(万葉集巻四、四八九)


 (あなたはそういうけれども)風であっても戀ふることが出来るのは、私には羨ましいばかりのことですよ。
風であっても、(戀ふる人が)来てくれるだろうかと待つことが出来るのだから、何も嘆くことはありません。(いつかきっと迎えにきてくれることでしょう。私には、待つ人もないのです)


 この風は、やはり「秋風」でなければならなかったのでしょう。春風でも、夏風でも、もちろん冬の風でもなく、秋の風でなければ、この歌の風情は出てきません。

 季節はまだ残暑が残る、丁度今頃の季節ではなかったでしょうか。そして、時刻は午後もやや遅い時間。日が少し傾きはじめたころ。昼下がりの気だるさも間延びして、退庁してもよいような頃ではなかったでしょうか。期待と軽い失望。微かに揺れ動く女心というものの襞を感じさせられるように思われます。


 山の辺の道を歩こうと思っています。近々、大和の地まで行ってきます。

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